どれだけの人間が憧れを抱いただろう(Bentley turboR)

今回紹介するのは、言わずと知れたBentley TurboR。

現行のBentleyの方が良いじゃないか。

そんな声は、このTurboRを好きな人からすれば、鼻で笑えるだろう。

イギリスの名車、Bentley。いや、アメリカテイストが効いたイギリス車とでも呼ぼうか。

まぁ、その話は、後にしよう。


エクステリアは、当時、この年代の高級車を象徴する惜しの強いグリル。

純正で、ボディ側面にピンストライプという、細い筆書きのライン入っており、1台1台職人が筆で引いてる。

中には新車購入時に、自身のイニシャルを入れてもらうオーナー様もいらっしゃったとか。。。

良い意味で古臭い、伝統的なクラシック高級車というイメージだ。


ドアを開けた瞬間、さすがだなっと思ってしまった。

この車は、もう20年以上、いや30年近く前の車だ。

それなのに、レザーの香りが車の外に広がった。

その瞬間に、木でデザインされたインテリアパネルに、本革のシート。

クローム加工されたトリム、スイッチ類が上品に配置されている空間が目に入る。

まさに、室内は、高級客船の様だ。


シートに座りドアを閉めると、クオリティの高さが際立つ。

非常に重いドアが、「カチャン」とドアのキャッチ部分のみと合わさり

耳が詰まった間隔になる。

あまりのクオリティのため、圧が逃げず密閉空間が生まれるのだ。

これがどういう事かお分かり頂けるだろうか。


ご自身の車のドアを閉めて頂きたい。

ドアとボディが衝突する「バタン」という音がしないだろうか。

この車はドアとドアが重なる音がせず、密閉されるのだ。


オーバークオリティこの言葉はこういう所で使う言葉だ。

だがベントレーから言わせてみれば、英国の高級車はこれが普通なのだ。

確かに、英国の高級品は高品質な物が多い。

時計はロレックス、オメガ 靴ならチャーチ。

英国が張り切って作る物の品質は、素晴らしい。


鍵を回し、6700ccある巨大なエンジンを始動させる。

V8の初動が、作りこまれたサスペンションでは抑え切れず車体を若干ゆらす。

ん?この揺れ、このアイドリングのフィーリングアメ車のアイドリングと似ている。

シェビー?いや、そんなに荒くはない。

ビュイック?いや違う。これは間違いなくフォードの感覚だ。



まさかと、思いコラムシフトに手を伸ばす。

80年、90年代のコラムシフトだ力を入れドライブにと思ったが

触れたシフトレバーがコツコツと音を立てドライブの位置までシフトしていく。


余分な力を使わせない様、油圧で制御されているのだろう、いちいち高級車だ。


アクセルを踏むと、やはりフォードの残り香を残しつつ

英国車独特の上品なシフトのアップダウンを繰り返す。

アクセルを強く踏み込み過給機を機能させてみる。

このセダンに、この加速感が必要だったのだろうか

暴力的という言葉には劣るが、しっとりと力強く加速していく。

気がつくとオーバー速度でドライブしてしまっている。


体感速度が非常に遅く感じる。

作りこまれた、上質な足回り、オーバークオリティの剛性が作り出す

室内空間が、速度を感じさせないのだ。


6700ccのエンジンが持つ余裕。

外装は少し派手でクラシカルだが

内装は今の時代だからこそのアンティークなお洒落さを持っている。

何かに例えるなら、英国紳士の様な車だ。


車を止め、後ろの座席に座り休憩をしていた時

ふとピラー部分に鏡があることに気がついた。

何のための鏡だろう。

きっと、英国人の考えることだ、化粧直しや、ちょっと顔を見直す際に

目の前の鏡を見ると、他の乗車している人から見られてしまう。


それだったら、車窓側のピラーに鏡をつけていれば

乗車している人に背を向けるため、直す仕草を見らずに済む。

そのたぐいの話では無いだろうか。


最新型のベントレーは良い車だろう。

だが、このベントレーには、このベントレーの良さがある。

最新では無いだけに、憧れを抱かれることが少なくなったターボR。

だが、「憧れる」その言葉を卒業し、「魅了」という言葉に変わった気がする。


型落ちの大衆車には、この魅力を漂わせるのは難しいだろう。

英国のクラシックカーだから、漂う空気がそこにあるのだ。


この車のシートで、どの様な人がどの様な雰囲気を楽しんだのだろう。

運転手を付け、後部座席でカップルが手を取り話たかもしれない

ましてや、どこかの会長が運転手と仕事に向かったかもしれない。

とあるお金持ちの息子が彼女とのデートで親の車を借りてデートしたかもしれない。

ましてや、荒波の中で耐えた企業の社長をこの車が支えていたのかも、、、


そう考えながら、中古車の高級車に乗り込み

自分もベントレーの記憶に名前を刻む。


この後ろ姿をどれだけの人が眺め見送られてきたのだろう。

どれだけの少年が憧れを抱き

これから、どれだけの大人を魅了し続けるのだろう。


故障、燃費、維持費、ランニングコスト。

この車の前では、そんな話は無粋で浪漫にかけるのだ。



車の楽しみ方は速い、最新の機能だけでは無い、

ベントレーの持つ空気、歴史を

助手席や、後部座席に座る過去の紳士達と無言の会話を楽しむ。

それも、この車の遊び方ではないだろうか。




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